無題

大学生になってから色々なことが変わりました。

ガンと宣告されてたおばあちゃんが亡くなりました。
大切なものがなくなるのが怖くなりました。

これ以上大切な人を作らずに生きていこうと人を関わることを避けました。
これ以上大切なものを無くせばきっと僕は壊れてしまうから。
周りにさも滑稽に映っていたでしょう。
好意的に近づいてもいつの間にか離れていく奴なんて。

そんなときに彼と出会いました。

いつも独りぼっちみたいな状況の変わった変な僕に近づいてくる
変わったお人よしでとても優しい人でした。

色々な楽しい話をしてくれるし、優しい楽しい家庭で育った
暖かい太陽みたいな笑顔で笑う。
僕は自分に無いものをもってる彼に惹かれました。

口下手な僕の話を聞いてくれたり、一緒に帰ってくれたり。
どうしようもなくお人よしな彼。
それがたまらなく幸せでまぶしかった。

夏も近づくころ、お母さんは他の男性とどこかに出かけたり
家事を何もしなくなったり、口を利かなくなりました。
お父さんと喧嘩をよくするようになりました。

二人の気持ちが離れ離れになるのが嫌で、
男性と会わないで欲しいと言っても聞き入れてはもらえませんでした。

お父さんは毎日夜に電話するお母さんにイラついて
険悪であることが多くなりました。

いつからこんなに家庭が荒れたのかは分からないけれど
温かい家族が羨ましい。

何気なく誰かが話す家族の話を聞いては切なくなりました。

おばあちゃんが亡くなった後おばあちゃんのお店の関係で
財産分与で親戚がもめました。
後から聞いた大人たちの話は想像もできないほど黒くて汚くて
嫌なものが渦巻いているものでした。
大人が分からなくなりました。 

今まで信じていた大人とはいったい何だったのか分からなくなりました。

いろんなものに裏切られて無くして、
家族も荒れていて友達との距離も遠くなって、新しい環境で
もう何もかもどうでもよくなりました。

変わらずそばにいたのは彼だけでした。
僕は大切なものを作りたくないはずなのに彼に惹かれました。

事実は忘れないし、何も変わっていかない
だけど、少しの間だけでも忘れて笑う楽しさを知りました。
彼の連れと話したりして、人の温かさを知りました。
絶望してどうでもいいはずなのにそれすらも揺らいでしまうくらい
彼のことは私の中で大きくなりました。

そんな彼だから私は好きになりました。
大切なものをこれ以上失いたくないくせに、
彼は大切な人になりました。

家庭の状況は変わらないし、お母さんが遅くまで帰らなくなった。
父方のほうだけじゃなく、母方のほうも財産分与でもめていることを知りました。
親を含める大人のことがもっとよくわからなくなりました。

それでも笑いました。
何もおかしくないのに笑いました。
誰にも悟られたくないし、そんなこと言える人なんていませんでした。
周りに誰かが居るはずなのに僕は孤独でした。
自分のことを知られるのは嫌いでした。
他人にとってどうだっていいことだから
自分の話をしない私からは人は離れていくけれど
どうでもよかった。

そんなときに、高校のときは知らなかった友達の話を
聞くようになりました。

家庭が上手くいっていないとか、学校が大変だとか
それに比べれば僕の悩みなんてちっぽけで
彼のことなんて言えなくなりました。

自分だけ幸せであることをわざわざいう必要性を感じなかったし、
そんな話をされて楽しいわけはないと知っているから。


ある日彼と歩いていた時に友達に出会いました。
彼のことを言うとなんで言わなかったのか
隠し事じゃないかと言われました。
その通りだと思いました。
誰だって隠し事をされたら気分が悪いし、
自分だけ知らない秘密なんて嫌です。
自分の考えだけで結果的に人を傷つけました。
信用してないわけじゃないし、嫌いなわけじゃない
だけどそんなことを伝えることが出来ないほど
きっと大きな壁が出来てしまいました。

人と深く付き合うことをしてこなかった
私は初めて大きく人を傷つけました。

もう二度と同じように話すことは出来ないのだろう
そう思うと切ないし、
そうなるような原因を作った自分がたまらなく嫌になりました。

いつだって人の顔色を気にして人に嫌われたくないだけの奴
後悔すると分かっていて何もできなかった自分
これ以上なく不器用でこんなんで生きていけるのか不安になった。

誰にも迷惑かけないようになんて生きられないけれど、
これ以上誰かを傷つけるなら
たとえ孤独でも、やっぱり人と関わるのは避けたほうがいいんだろうなって思う。

本当に自分が大っ嫌いだ。